ブックライフ・ファシリテーター

 

ブックライフ・ファシリテーター®︎とは、お客様や取引先様、スタッフと良好なコミュニケーションを育みながらエンドユーザーであるお客様を含めて、本に関わる人すべてに、「本のある豊かな生活」を提案・発信していく新しい書店員のスタイルです。ツクヨミプランニングの書店ブランド「ツクヨミしろくま堂書店」はブックライフ・ファシリテーターのあるべき姿を追求していきたいと願っています。

ブックライフ・ファシリテーター®︎は現在、元書店員を中心に少人数のグループで活動しています。お客様から選書のご依頼があった場合、まずはカウンセラーがお客様との対話でニーズをお伺いし、お客様のご要望、カウンセラーが感じたことを、グループに投げかけ、意見を求め、選書リストもしくは実際の本としてお客様にお渡しいたします。棚づくりなどの必要がある場合も、このグループの中から人員を選びます。

本を売る、人が売る。

私は書店で働きながら、思っていることがあります。それは、「売るものを本から人へシフトする」です。これはなにも、本を売らずに人を売ろうという意味ではありません。もちろん、本は売りますし、人は販売できるものではありません。「本を売る人の魅力・知識・経験」を売るということです。

Pasted Graphic最近AI(人工知能)の発達がいろんなところで取り沙汰されています。「本を売る現場に携わる人の知識や経験をマニュアル化、データ化し、AIにすべてをやってもらおう」ということを本気で考えている書店もあるかもしれません。仕事のマニュアル化を命ぜられる度に「自分たちの仕事がなくなるかもしれない……」と心配になるのも仕方がないくらい、AIの技術は日々進化しています。

AIより、もっと身近に感じる脅威はネット書店でしょう。インターネットで本を購入する人が増え「リアル書店の売上げを脅かしている」という声を様々なところで耳にします。とても便利で、クリックひとつで翌日には本が届きます。本を注文すると、1週間以上かかるリアル書店には勝ち目がないように思えるかもしれません。

しかし、下の図をみていただきたいのです。これは、本を買う人がどのようなルートで入手しているかを調べたデータです。

 

販売ルート推定出版物販売額比率(%)

Pasted Graphic

日販営業推進室『出版物販売額の実態2018』より作成

 

これを見てもわかるように、ネットでの購入は、全体の1割強であり、ほとんどの人がリアル書店で購入していることがわかります。ネット購入の比率はじわじわと大きくなってはいますが、爆発的ではありません。これはなにを意味するのでしょうか。

ネット書店は便利です。「この本が買いたい」という、目的買いには適しているでしょう。しかし、本当にユーザーが満足して使っているかというと、それは疑問です。例えば、購入者が自由に投稿できる「リコメンド(おススメ)」の記事。この記事での評価を参考に本を買う人は多いです。書店ではこの記事をスマホなどで見ながら本を選んでいる人も多く見られます。

しかし、最近では、ユーザーはこのリコメンドを「信用できない」と言います。というのも、このリコメンドを書き込む人は、メーカー(出版社)の関係者が多いからです。当然、おススメの記事で溢れます。頼まれて書き込んだ記憶がある人もあるのではないでしょうか。ユーザーはその事を見抜いています。

おススメの投稿は信用できない、信用できる投稿はネガティブな情報だけ、となると、顔を知っている身近な人の情報の信用度が大きくなってきます。作られた話題で買う1冊よりも、自分だけの特別な1冊を求めている読者は多いのです。ネット書店に本との出会いを創出できる工夫は様々ありますが、データに基づいた統計的な薦め方から抜けられるのはまだ当分先か、永遠に来ないかもしれません。

リアル書店にはネット書店にはない大きな強みがあります。それは人がいるということです。当たり前で単純なようですが、この事はとても大事です。本を売る人(書店員)がお客様の信頼と魅力があれば、ネット書店と上手に住み分けができると考えます。買うものが決まっていて、ネット書店に利便性を感じるお客様はネット書店を利用します。

リアル書店に足を運ぶお客様はなにを期待しているのでしょうか。大型書店であれば、品揃えです。しかし、大量にある本を前にして、そこから自分の欲しい本を探すのは困難です。もちろん新刊本や、検索システムで探せるような本は自分で見つけられるかもしれません。それらのシステムはお客様へのサービス上、大切なものです。しかし、曖昧な思いを胸に、書店へ訪れる人は検索システムにキーワードを入れるだけでは、お目当ての本に巡り会えることは稀です。そもそも検索システムにキーワードを入れるだけでいいのであれば、ネット書店でも役割は果たせます。

リアル書店に来るお客様は様々な理由で来店されます。「何か面白い本はないか」「この本屋さんならおいているだろう」等々……。そのあたりのマーケティングはひとまず置いといて、ここでは立ちはだかる本の壁を見て、どうしたらいいかわからないお客様に焦点をあててみましょう。

こうなると、人に聞くしかありません。そこではじめて、書店員の出番なのです。なにを当たり前のことを……、と思われるかもしれませんが、以下の例を見てください。私がよく見かけるお客様と書店員の会話です。

 

お客様「すいません、小学生向けの辞書を探しているのですが、どれがいいですか?」

書店員「小学生向けの辞書はこちらです」

お客様「いろいろ種類がありますねぇ、どれが売れていますか」

書店員「◯◯社のものが売れています、△△社のものも人気です……。あとは、お客様の好き好きですから……」

お客様「そうですか、じゃ、ちょっと見て選んでみます」

書店員「ごゆっくりどうぞ」

 

悪くはないのですが、これではネット書店で選んでいるのとあまり変わりません。お客様は決めて欲しいですし、書店だって決めてあげた方が確実に売上につながります。私ならこう言います。

 

「◯◯社のものが売れています、△△社のものも人気です……。でも私は□□社のこの辞書がおススメです」

 

こっちの方が確実にお客様は買ってくださいます。そして、お客様にも満足感が残ります。実際は、お客様におススメの理由も話しますし、その前に、誰が、どのような状況で使うのか、できるかぎりの情報もお伺いします。決めてほしいのか、ただどんなものがあるのかを確かめにきているのかも考えます。後でクレームを受けるのでは……、と心配される方もいらっしゃいますが、今のところお叱りは受けていません。

 

ネット書店にこのようなやりとりはできるでしょうか。リコメンドにいろいろ書くことはできます。

 

忙しい現場で、一人のお客様にそんな時間を割いていられない!というお声もあるかもしれません。しかし、思い出していただきたいのです。私たちの仕事は本を売ることです。

(以下続く)